発展、それは万物がより高みへと昇り行くこと。ある者は日々の努力により力を蓄えてゆき、ある者は哲学により英知を磨き、ある者は日々の鍛錬により様々な技術を身につける。
ダスキンの勤める六条総合株式会社(以下,六条社)も例外ではなく、初代の頃に色々と応用の利くという新種金属の鉱山を発見した事をきっかけにあらゆる分野に開発の手を伸ばすようになり、ついには全国の有数の研究者達の憧れとなるほどの大企業にまで成長した。ダスキン自信も、田舎ではあったがソコソコに有名な学校を専攻過程まで卒業し、なんとかこの場所に居られるくらいだ。尤も、開発部とはいえど雑用的な扱いではあるが。
しかし、当然の事ながら発展には代償がつき物。尤も、六条社の手がける事業は外観こそ損なうものの、排気・排水・産業廃棄等に関しては発足当初とは比べ物にならぬほど徹底されており、会社が産出する品々はローコスト・ローエネルギーであるのが故にこれまた全国各地で評判が良い。そのため民間人の評を失うということはない。
生産ラインにしても、資材の供給から出荷まで問題など何一つない。
唯一つを除いては。
初代の頃に発見したとかいう、ソレ。
既存の物質なら取引でどうにでもなる。しかし六条社が発見した金属となれば話は別だ。初代の取締役達は何を血迷ったのか、この金属の取り扱いに特許を申請し、さらに悪いことに、どういう訳かソレが現実のものとなってしまった。尤も、当時は地下資源を利用し始めたばかりの時代だったので、よもや底を尽きるとは思っていなかったのだろう。
当然の如く、この金属を捜し求める者はいない。そのうえ国外ですら見つかった例はないのだという。何百年も経った今でも。
採掘量が不足の色を見せ始めた頃、ようやく六条社はこの危機に焦りを見せ始める。資材部の活躍により、この金属は我が国の独特な地形が齎した物であることが判明した、つまりこの国にしか存在しないのである。
そしてついに、会社の総力をかけた金属採掘プロジェクトが立ち上がる。ダスキンが入社するおよそ50年前の事であり、これが後の社運に重大な影響を及ぼす。
ほどなくして、都市から数百キロも離れた偏狭の地で新たな鉱山が発見された。驚くほどの埋蔵量を誇るという。当然の如く六条社は採掘を試みる。だが事はそううまい具合には進まなかった。住民がいたのだ。稀にあることだが、情報機器が揃った今ですら未開の地というものは存在する。あまりにも偏狭すぎて外界との縁を閉ざしているような街も多々存在する。今回の件もそうだった。穏便に済ませようにも、ちょっとした交流とはワケが違う、当然適う筈もない。
そして次に六条社がとった行動は・・・。
この後の事を深く語る者はいない。
少なくとも、この件にはあのJ棟が関わっているということ。
ここまでが六条社で有名な、そして最も忌み嫌われる話題、社内伝説。
あくまで社内での噂話のようなものなので、ダスキンもその街が実在したのかは愚か、プロジェクトの存在すら知らない。上部は遠方の山間部に第二の鉱山がある等のことしか公開していない。それ故、てっきり発足当初から二つの鉱山を利用しているものとばかり思っていた。尤も、上部が社に関する噂一つ持ち出す事を禁じている所を見ると、悲しいかな、この伝説は無視できない。
「なんというか、囚人にでもなった気分だな。」
清楚に整えられた他棟とは異なり、一面がくすんだコンクリ張りになっており、入り口周辺には誰の姿もない。棟自体は他の棟の陰になっていて周りからは一切見えず、入り口含む硝子壁は全てブラック仕様で中の様子は全く伺えない。
「噂どおり気味が悪すぎる。こんな所で何をしろってんだよ・・・。」
ここだけ廃業しているのではないかと思ったが、引き返した所で仕方がないので已む無く進むことにした。
「あの・・・すいません。」
『・・・っと打ったァァァァァっ!大きいッ大きいッ、ホームラン!・・・!』
「あの~・・・」
エントランスは外観に反して狭かった。俺としてはもう少し、というのは喉の奥にしまっておいた。
「ッチ・・・なにやってんだよクソピッチャー、腕以前に構えからなってねぇ。」
「あのー、此処の28階に・・・」
五月蠅そうに左手がゆれた。さっさと通れ、ということらしい。
それ以上問いかけると一悶着起きそうなので大人しく従っておいた。
他の9つの棟ならば1階から10階までには広いふきぬけがあり、そこからエスカレータが何本も延びており、エレベータも一目でわかる位置に設置してある。しかしここは何だ。ふきぬけなどは一切無く、延々と長い廊下が続いている。まるで何処かのホテルかマンションじゃないか。
突き当たりを曲がって直のエレベータに乗り、28階を選ぶ。エレベータの窓にまでブラック加工を施してあるところを見ると都市伝説が現実味を帯びてくる。
まぁいい。別に此処の部署じゃないんだし。
そうこうしているうちに、エレベータが音を立てて開いた。
先ず最初に驚いたこと。
部屋が一つしかない。
見渡す限り会社のものとは言い難い雑具、所々に見受けられる露出した柱、そしてその奥のほうにこれまたブラックで仕切られた部屋が一つ。おそらくアレが件のミーティングルームだろう。
「総合・・・なぁ。」
成程、あまりきまりの良さそうな場所にはみえなかった。それでも六条社の一部署、それなりの弁えを以て立ち向かわねば。そう思い直した時だった。
「やっと来たかぃ。オモテで突っ立ってたところを見るとチビってンのかと思ったけど。まぁそんなんじゃ困る。」
何時の間にか部屋の扉が開け放たれ、蒼いベレー帽を被った女性が姿を現した。
「は、はぁ・・・」
まさか向こうから出てくるとは思わなかった。こういう場合、上に立つ者は常に傘下の者を招き入れる立場であり、堂々と中で腰掛けているものだと思っていた。
「何突っ立ってンの、さっさと入って。」
「あたしの名前は浪花。一応ここの纏め役みたいなもんね。」
ふてぶてしく座ってはいるが、今まで目の当たりにしてきた上部の人のようには見えなかった。
「・・・で、早速だけど、今から言うことは一度しか言わないから耳かっぽじって聞くこと、いい?次第によっちゃァ命に関わるからね。まぁこの都市で言っても仕方ないンだけど。」
別部署だが、それでも上司に値する御人の前なので座らせてもらうだけでも大そうなこと。勧められつつも遠慮せねばと断った所、強引に座らされてしまった。
「再度念を押すほどに・・・危険な内容なのでしょうか。」
「はぁ?・・・まぁいいわ、とりあえずエモノをここに。」
聞き間違いかと思った。エモノ?エモノと言ったのか?
「あたしに二回も言わせる気?」
どうやら冗談の類ではないらしかった。エモノだのなんだのというのはあくまで一市民としての護身対策であって会社の一員としてのものではない。だというのに。
「は、はぁ。自分が所持しているのはこれだけですが・・・。」
アサルトダガー。重圧や衝撃にも耐えられるしっかりした造りでありナックルとしても使用できる。だが実の所そんな特性が生かされた例はなく、時折修練場で全貌を晒す程度だった。それにダスキン自信もそんな状況に安心していた。
「へぇ、見かけによらずしっかりしたモン持ってるじゃないの。だけど・・・。」
デスクから見覚えのあるソレを取り出して目の前の机に叩き付けた。
「これからはコレも忍ばせておくこと。無論、肌身離さず、ね。」
グリップとスライドが多少着色されてはいるがセミオートマチックであることは間違いなかった。9mm経口のようだが型名が思い出せない。いや、それよりも何か忘れているような。
「後、そんなホワイト・カラーみたいなヤツじゃなくてもっと動きやすい服着てくること、私服なんて此処では当たり前なのよ。」
思い出した。さっきから流れがおかしい。
「いや、私はE棟の開発部の者で、先程まで書類を片付けていましたので。」
「ちょっと・・・ということはアンタ、まだアレ持ってンのね。ったく今日は貴重な非番だったのに余計な仕事増やしてくれちゃって。ホラ、さっさと出す!」
何のことだかサッパリわからない。そう思って口を開こうとしたところを浪花に制された。
「成程、成程。どおりで顔色一つ変えずパッツリの服で固めてきたわけね。あたしが言ってンのは社員証。時間がないの、さっさと出して。」
話が読めてきた。と、同時に眩暈で倒れそうになった。
「フフッ、それが正しい顔よ。それとこれが新しい社員証。」
社員証とは到底呼べそうもない異形のそれを受け取りつつ何とか答えた。
「あの・・・私は・・・」
「御想像の通りです、ダスキンさん。」
明らかに皮肉と言えるソレ。せめてもの慰めなのだろうが。
・・・左遷・・・されたのか。
―理想郷 第三幕―
あとがき。
っということで色々あったけど2人目は其世っちの持ちコテの浪花でする。
色々とありがとうございまする><;
今後の予定としてはメンバー数名とダスキソの周囲の仲間として数名を予定してまする。